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柴田花蓮の書籍紹介およびお知らせ等のブログです。既刊・新刊の紹介、スペシャルコンテンツの公開(SS掲載)など、あれやこれやが盛りだくさん。たまに呟いていることもありますが、そこは生暖かい目で見守ってください。

SP1:黒猫の就寝事情

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ねえ、シャルル」
週末には再びナナセリオンへ向かうことになっている、ある日の夜。 ベッドの上で寛いでいた僕に、お風呂上りで濡れた髪をタオルで拭きながら、七瀬が話しかけてきた。

「なあに? もしかして、向こうに行く予定を少し早めたいの?」
 それなら大歓迎! 僕がベッドの上でぴょんと飛び跳ねながら七瀬に言う――と言っても頭の中に直接語りかける感じだけれど。すると、

「違うわよ。そうじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあるというか」
 行くのは週末よ! と相変わらずその部分の姿勢は変わらず、七瀬が僕を見つめ両手でベッドから抱き上げる。

 ちぇっ。相変わらず七瀬は固いなあ。僕が「七瀬のケチ」と口を尖がらせていると、

「ねえシャルル。ナナセが生きていた頃は、ナナセと一緒に寝ていたんでしょう?」
「え? そりゃそうだよ! なんていったって、僕らは相棒だからね!」
 予想外の質問に僕は一瞬驚いたけれど、すぐにそう答えた。

 そう、僕と七瀬の前世である「ナナセ」は、相棒だった。だからこそ、死ぬときだって一緒だった。
当然、普段の生活では特別な事情がない限りは、僕は彼女と行動を共にしていた。 だから、眠るときだって一緒なのが当たり前。そういう見識だったんだけれど――なんで七瀬はそんなことを聞くんだろう?

「シャルル、一緒に寝ている時、ナナセは何か言ってなかった?」
「何かって? ナナセが寝言を言っていたってこと?」
「そうじゃなくて・・・・・・えーと」

 何故かそこから、七瀬の歯切れが悪くなった。 一体どうしたと言うんだろう。僕が首を傾げると、

「シャルルって、その・・・・・・随分とノビノビと眠るよね?」
「ノビノビ?」
「うん。私、子猫ってまん丸に丸まって眠るものだと思っていたんだけれど・・・・・・」

 七瀬はそう言って、机の上においてあったタブレットを手にした。そして指で表面をなぞるようにして何かを僕に見せる 。

 そこには、僕にとっても良く似た子猫が、七瀬のベッドのど真ん中で大の字になって眠っている姿が映し出されていた。
 定期的に上下に動いているお腹。そして、耳を澄ますといびきのような音まで聞こえる。
 そんな子猫の腹を、この映像を撮影している七瀬が指でツンツンと突っついた。 子猫はそれでも起きる様子はなく、それどころかゴロンと寝返りを打ち、今度は七瀬愛用の枕に顔を突っ伏して横たわり――


「何この猫。眠っているからと言ってさー、こんなにお腹丸出しで眠っていたら、いつ誰に襲われるか分からないよ!」

 何たる無防備。そして何たる油断。同じ猫として、ちょっと心配しちゃうよ! 僕が映像を見ながら呟いていると、何故か七瀬はそんな僕を半笑いで見つめていた。

「何だよ、七瀬。その顔」
「・・・・・・自覚、ないんだ?」
「自覚? 何の話?」
 それじゃまるで、この無防備な子猫が僕みたいじゃないか! と僕が反抗すると、七瀬は「昨日のシャルルよ」とため息をつきながら答えた。 そして、

「これじゃ、ナナセも大変だったでしょうねえ・・・・・・シャルルが来てから、おかげで私は寝不足よ」
「そっ・・・・・・な、ナナセは何も言ってなかったよ! しいて言えば、『シャルルは寝ているときもシャルルだな』って、言われたことがあるけど!」

 あっちの世界では、世界自体は戦争中だったけれど、ナナセリオン城の中は安全だった。 ラミアスの街から出なければ危険なこともなかったし、城の中庭では、ナナセとひなたぼっこをしながら眠っていたこともあった。
 こっちの世界はそういう状況でもないし、それに何よりナナセの生まれ変わりである七瀬と出会えたから、その嬉しさと安心感で確かにちょっと油断していたかもしれない。 そう、僕がノビノビと眠ることが出来るのは、寧ろ七瀬のせいだ! 僕がそんなことをぼやくと、

「まあねえ・・・・・・向こうのお城のナナセのベッド、キングサイズくらいはあったしねえ。シャルルの寝相が悪くても、ナナセには気にならなかったんでしょうけど」
「そ、それどういう意味だよ!」
「そういう意味よ」
 シングルベットだと、重大な問題だわ。七瀬はため息混じりにそういうと、僕を床の上におろした。そして、

「そういうことだから、シャルル。これからはシャルル専用のベッドを用意するから、そこで寝てもらいます!」
「ええ!? 嫌だよ! 僕は七瀬の相棒なんだから、七瀬と同じベッドで眠りたいー!」
「このままだと、私が毎晩寝不足で大変なの! 具合が悪くてナナセリオンにいけなくなっちゃったら困るでしょ!」
「うっ・・・・・・」

 それを言われると元も子もない。 僕がぐっと詰まっていると、七瀬は部屋のクローゼットの中から、なにやら黒いドーム型の入れ物を取り出し床へと置いた。

 ドームのそこには、見るからにふわふわな布が敷かれている。ドームの丸みを帯びた天井部分には、三角形のものが二つ、左右に分かれてつけられていた。 そしてその三角形の近くには、水色の綺麗なガラスだまのようなものが同じく左右に分かれつけられている。

「もしやこれは・・・・・・」
 何となく、何処かで見たことのあるフォルム。僕が怪訝な顔で七瀬に尋ねると、

「うちのお母さんお手製の、シャルル専用ベットよ。ほら、外見もシャルルみたいでしょう?」
「やだよ! だって狭いじゃないか!」
「子猫が眠るには十分の広さよ! それに、ほら! この底に敷いてある布はね、天然素材百パーセントの高級布なのよ! そういえば、ナナセのベットに敷かれていた布に似ているかなあ」

 七瀬はそう言って、僕をそのベッドの中に押し込んだ。そして、シュッと何かを中に吹き付ける。
 その瞬間、嗅いだ覚えのある匂いがふわりと中に広がった。 ナナセが大好きだった「ヴィヴィアンローズ」の薔薇とは少し違うけれど、城でよく育てられていた一般的な薔薇の花の香りと同じだった。

「ナナセのベットで寝ているみたいでしょう? ナナセリオンにすぐに行けない分、これならいいじゃない」

 七瀬はそう言って僕ににっこりと微笑む。

 ――そうか、これは七瀬の優しさだったのか! 僕はただ、ベッドから追い出されたわけではないんだね!?  僕は七瀬の心遣いに感謝しつつ、

「ありがとう、七瀬! 僕、今日からここで寝るよ!」
「そうね、それがいいわ。薔薇の香水は、ここにおいて置くから好きに使っていいわよ」
「わかった!」
「それじゃあお休み、シャルル」
「うん、お休み!」

 僕はさっそく、薔薇の香りに満ち溢れた僕専用ベッドにもぐりこんだ。七瀬も自分のベッドに入り、すぐに眠ってしまった。彼女、寝つきはナナセと同じで良いみたいだ。さすが、同じ魂を持つ二人だ。

 ――正直、七瀬のベッドに比べるとだいぶ狭いし暗いけど、でもシーツもに香りもナナセリオンを思い出す気がして、とってもいい。
 僕は、スンスン、とベッド内を満たしている香りに鼻を鳴らす。
 匂いはしばらくすると消えてくるので、僕は「好きに使っていい」という七瀬の言葉通り香水瓶に手を伸ばし、消えてはシュッ、消えてはシュッ――を繰りかえす。 お陰で朝を迎える頃には香水瓶は空になっていた。 そして――


「おはよう、シャル・・・・・・いやー! 何、この匂い! ちょっ・・・・・・まさか香水を全部!?」
 翌朝、七瀬の悲鳴に似た声が部屋には響き渡った。 そして、

「なんで朝からお風呂に入るんだよー!」
「シャルルのせいで、私にまで薔薇の匂いがしみこんじゃってるのよ! こんな香水の匂いが強くちゃ、学校に行けないじゃない! ああ、もう朝はただでさえ忙しいのに!」
 僕は朝っぱらから七瀬とお風呂に入り、身体をゴシゴシと現れた挙句、

「シャルル専用ベッドは廃止!」
「えー、何でだよ!」
「何でも! もう、シャルルは何もしないこと! ・・・・・・ああ、もうやっぱり私の寝不足は続くのね」

 せっかく与えられたベッドは没収されてしまった。
 ――まあその代わり、また七瀬と一緒のベッドで眠るようになったんだけれどね。 僕の就寝事情は、結局のところどこにいても、ナナセでも七瀬でも彼女達が傍にいてくれるなら、あまり変わらないみたいだ。

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