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SP2:黒猫の食事事情

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僕・シャルルの前世での飼い主でもあり、ナナセリオン王国の皇女でもあったナナセ。 
 若くして非業の死を遂げた彼女の魂のかけらを集める為、そして自分の胸に刻まれている痣を消すために毎週末ナナセリオンに来ることになった僕と七瀬は、予定通り今週も、合わせ鏡の扉を抜けて、ナナセリオンへとやってきていた。

 とはいえ、日付が変わるのと同時にこちらへ来るため、まだまだ子供(といっても十七歳だけど)の七瀬は眠気には勝てないようで、こちらへやってくるなりさっさと着替え、たどりついたナナセの部屋のベッドに潜り込み眠ってしまった。
 こちらに来ることが決まった当初は、僕らがやってくる時にはユーリとセシルがこの部屋で待っていてくれた。でもやってくる時間も遅く、きっと七瀬も休みたいだろう――といことで、最近ではやってきた翌朝、部屋に迎えに来るようになっていた。



 きっとそういうのは、セシルが気を回してくれてそういう風になっているんだ。ぜーったい、ユーリじゃない。
 ああ、もうセシルは本当に優しいよねえ。それに比べて、ユーリはさあ――僕は早々と眠り込んでいる七瀬を起こさないように部屋の外へ出て、適当に城の中を歩き回りながら、そんな事を思っている。

 ナナセが若くして非業の死を遂げた分、その生まれ変わりである七瀬には幸せになってもらいたい。その為には、セシルのような優しくて気も聞く大人の男性が傍にいてくれたら。

 こんな事を言っていると、まるで僕が七瀬の保護者みたい。でも、相棒なんだもん。心配するのは当然だ。 今回の魂のかけら集めには協力してもらうけど、決してユーリみたいなタイプの男は近寄らせないぞ! ――僕はそんなことを思いながら、深夜の廊下をテトテトと歩いていた。


 と、その時。


「シャルル。こんな時間にどうしたのだ?」
「あ、セシル! セシルこそ、こんな時間にどうして!?」
「私もユーリも今日は夜勤でな……それより、いいところで会った。お前に聞きたいことがあったのだ」

 僕はセシルと偶然遭遇した。セシルの事を考えながら歩いていた時に本人に会うなんてなんてタイミング! 僕がそんなことを思っていると、

「シャルル、お前は今、七瀬様と一緒にあちらの世界でも生活しているのだろう?」
「うん。だって僕らは相棒だからね!」
「では、七瀬様があちらでどのようなものを召し上がっているかも知っているよな?」
「え? うん……でも何でそんなことを?」
「こちらの世界での夕食はともかく、お越しになった翌朝の食事に関しては、いつも召し上がっているものとそう変わりがないものを用意したほうが良いと思ってな。一週間ぶりとは言え、空間を超えてこちらにいらして下さるのだ。食べ物も、徐々に身体を慣らす方が良いだろう?」

 セシルはそう言って、僕の身体を床から両手で抱き上げてにっこりと微笑む。

 ――ああ、もうなんて気が利く上に優しいんだろう。流石セシル。その心遣い、七瀬も喜ぶだろうな。僕はセシルのその優しさに胸を打たれつつ、「ありがとう!」と七瀬の代わりに礼を言う。そして、

「わかった! セシル、そういう事なら僕に何でも聞いて!」
「ああ。 まず…七瀬様が普段召し上がっている主食なのだが」
「七瀬はね、朝は『ロールパン』を食べているんだよ!」
「ろーるぱん? ろーるぱんとは何だ」
「パンがね、くるんてねじりながら小さくまとめてあるの。手に乗るくらいのサイズなんだよ!」
「手のひらサイズのひねったパン、なのだな。こちらの世界ではパンと言ったら棒状の硬めに焼きあがったものだけだったのだが、流石は異世界だな」
「そうだね!」
「では次に、副食なのだが……七瀬様はいつも何を召し上がっているんだ?」
「目玉焼き」
「めっ……! シャルル、それは真実か? 七瀬様は、そのようなものを!? 目玉……それは一体何の……」
「ニワトリのって言っていたよ! 七瀬はそれにね、塩をかけて食べていたよ。美味しいって」

 そのお皿の上に、サラダ用の葉っぱが乗っていたよ。僕は七瀬の普段の朝食風景を思い出し、そうセシルに伝えた。

 普段もあまり夜更かししない分、朝は早起きする七瀬。七瀬のママさんも「学校に遅刻してでも朝ごはんはしっかり食べて行きなさい!」って言っているらしく、そういうのもあって七瀬はしっかりと毎朝ご飯を食べて学校に通っているみたい。
 そんな風間家では、朝は主食がパン、夜はゴハン、という名前の白いものが食卓に出てくる。ナナセリオンとはだいぶ違う食卓風景だ。

 まあ、僕も初めて七瀬の食事を見た時はびっくりしたかな。
 ナナセリオンでは、七瀬が普段食べている目玉焼きっていうお料理はない。卵は完全に混ぜた状態で材料として使うことが主流だから、それをメインで出すってことが無いんだ。
 実際、七瀬がこちらに来て城で摂った食事では、デザートのケーキ以外で卵を使ったものはなかった。そういうのもあり、セシルには衝撃だったみたい。

 あれ? でも僕、「目玉焼き」が卵料理だってこと、セシルに言ったっけ? ああ、でも何か通じているようだし別にいいか――僕がそんなことを思っていると、


「目玉焼き……そうか、七瀬様はそれを毎朝食べていらっしゃるのだな」
「うん。大好きなんだって」
「そうか……なるほどな。うん、シャルル。助かった。それでは明日の朝、七瀬様のお好きな『目玉焼き』を準備しよう。確かニワトリだったな」
「そう。七瀬も喜ぶよー! セシル、ありがとう!」

 僕は、笑顔ではあるけれど何故だか神妙な顔つきのセシルと別れ、再び七瀬が眠っている部屋へと戻った。 そしてベッドの中へと潜り込み、明日の朝食で嬉しそうな表情をする七瀬を想像しつつ眠りについたのだけれども。




「……ほう。七瀬様はニワトリの目玉を焼いたものを食べるのか。見かけによらず、随分とワイルドじゃないか」
「私も自分の耳を疑ったが、シャルルが言うのなら間違いないだろう。でも、お好きならば用意して差し上げるのが騎士としての務め。ということでユーリ、私は今からちょっと行ってくる」
「いや、待てセシルよ。七瀬様の為にというのは分かるが、深夜にわざわざ鶏舎へ目玉を焼くためのニワトリを捕まえにいくというのはいささか。しかも頭に布まで巻いて蝋燭を携え、深夜に槍を片手に鶏舎へ行くその姿、あまりに滑稽……いや、寧ろ不気味だぞ。城の女どもが見たら悲鳴を上げるレベルだぞ。どんなに端麗な容姿をしていても、その部分は贖えないのだぞ」
「他人などどうでも良いのだ! すべては七瀬様の為。調理人に渡した後、下処理に時間がかかるかもしれないではないか。そうなると、朝食に間に合わないだろ。朝起きた七瀬様が、大好物を朝食で召し上がることが出来ないという悲しみ。それを思えば、このような事、どうってことない」
「いや、お前の忠義心の強さはわかる。わかるがな、セシル。それでも、これはちょっと」
「昔のお前だって、きっとナナセ様の為ならこうしただろう? 私も、今は七瀬様の為に何かして差し上げたいのだ。それがたまたま、ニワトリだっただけで。あとはパンも、くるんとねじって手のひらサイズで焼いてあるそうだ。せっかく何で、厨房でそれも作ってみようかと思う。ああ、そうだ。どうせならもう一つの目玉をパンに飾ってみようか。目玉焼きがお好きなようだし、パンに沿えるのもありかもしれんな」
「すごいな、お前……俺はある意味お前を尊敬するよ」

 ――深夜の城の一角で、にわとりを捕まえるための準備をしながらセシルとユーリがそんなことを話していたことも。

 翌朝、笑顔のセシルに朝食が用意した部屋に通された七瀬が、食卓を見た瞬間悲鳴を上げてその場で気絶したことも。当然その直後、
「……シャルル。ちょっとこちらへ」
 決して目が笑っていない迫力のある笑顔で僕がセシルに別室に連れていかれる羽目になることも(ついでに、ことの顛末を聞いて笑い転げたユーリがとばっちりを受けて僕と一緒にセシルからお説教を受けることも)――この時点の僕が、勿論知る由はない。
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