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柴田花蓮の書籍紹介およびお知らせ等のブログです。既刊・新刊の紹介、スペシャルコンテンツの公開(SS掲載)など、あれやこれやが盛りだくさん。たまに呟いていることもありますが、そこは生暖かい目で見守ってください。

SP3:黒猫のアドバイス事情

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 何度か二つの世界を行き来していることもあり、僕はともかく七瀬も、最近ではこのある意味「特殊」な環境に慣れてきているみたいだった。
 僕としては、本当はこのままずっと、ずーっと七瀬に「ナナセリオン」にいてほしいと思うけど、彼女にはこれまで彼女が生きてきた世界もある。
 そちらの世界のパパさんも、ママさん。なんて言ったっけかな、確か仲良しのお友達。
 それに、ボタンを押すだけでいろんな映像が映る箱とか、表面を指で撫でるだけで、面白いメロディがあれこれ聞ける道具。
 魔法も使わずに、一瞬で火を起こせる道具とか、欲しいものがなんでも手に入るお店とか。
 そういう世界をすべて捨てて、そういうのが全くない生活を選ぶ、というのはいくらなんでも無理だろう。
 仮に選んでくれたとしても、きっと今すぐではなくて、もっともっと先なんじゃないかなって思う。

 でも、七瀬にはもっと知ってほしい。
 そちらの世界には無い環境、良い点だって、「ナナセリオン」にはあるんだ。
 七瀬の前世、すなわちナナセはお姫様だった。
 お城で、きらびやかなものに囲まれて暮らす生活なんてなかなかできないだろう?
 それに――


「ん? シャルルじゃないか――どうした、こんな場所で。散歩でもしていたのかな?」
「リタ! お仕事はもういいの?」
「ああ。もうしばらくしたら父上たちの元へ行く予定だが、少し気分転換にと思ってな……」

 城の中庭側にあるベンチの上にちょこんと座り、そんなことを考えている僕に、たまたま側を通りがかったリタが声をかけてきた。


 こんなにフランクに話しかけてくれるけれど、リタは今のナナセリオンの王様。つまり国王。
 そして、ナナセのお兄さんだ。
 ナナセのことをとても大切に思ってくれていたから、僕が七瀬をここへ連れてきたときはとっても喜んでくれた。
 後でセシルから聞いたけれど、七瀬との初対面の時、是非二人きりで会いたいって強く望んでたって。
 だから、お城の中の礼拝堂の中で(一応僕もいたけど)七瀬とそこで会ったんだよね。
 あの時のリタ、確か感極まって七瀬を抱きしめていたっけ――若くして非業の死を遂げた、最愛の妹・ナナセの魂を持つ、七瀬。
 リタにとっては、非業の死を遂げた妹がもう一度ここへ帰ってきてくれたような、そんな感覚だったのかもしれないな。

 ただ、七瀬がこちらに来るのは週末の二日間だけ。
 それにやってきても魂のかけらの回収作業で忙しいから、国務で忙しいリタとなかなかゆっくり話をする時間がない。
 実際、先王様と皇后様のいるお屋敷に一緒に行った後は、会話を交わしていないらしいし。
 リタはもっともっと七瀬と話をしたいみたいだけれど、お互いの事情が事情なのでそれは叶わないみたいだった。

「シャルル、七瀬はどうした? まだ向こうへ帰るまでには時間があるだろう?」

 案の定、僕の姿を見たリタは側に七瀬を探していた。
 ナナセの時もそうだったけれど、僕はいつも彼女の側にいたから、七瀬の場合もそうだと思ったのだろう。
 でも残念、僕があんまりにも七瀬にナナセリオン移住説を唱えるので、部屋から追い出されている最中。
 もちろんそんなことは言えないので、

「あー、えっと、七瀬は今、お部屋で休んでるよ。ちょっと疲れたみたい」
「そうなのか……確かに、慣れない世界で慣れないことをすれば疲れてしまうよな」
 それを聞いたリタは、少し残念そうな表情をしていた。
 ああ、やっぱり七瀬と話をしたかったのかな――僕が「呼んでこようか?」というと、リタは「いいや、休ませてやってくれ」と笑顔で答える。
 相変わらず優しいなあ。王様なんだし、命令すれば絶対なのに。僕がそんなことを思いつつ、

「ねえ、リタ。リタは七瀬ともっとお話ししたいんでしょう?」
「! あー、まあ……うん、正直言えばそうだな。七瀬はわが妹の魂を持つ娘。三年ぶりに、わが妹が帰って来てくれた気がして、何を話すわけでもないんだが、何か話をしたくてな」
「リタ……」
「しかしな、シャルル。じゃあ実際に七瀬と向き合って座ったとしよう。さあ話すぞ、となった時、いきなり妹の話をするのもなんだし、かといって七瀬を質問攻めにするのも申し訳ないし。でも、会えて嬉しかった気持ちは伝えたくて仕方がないんだけれど、それをどうやって切り出していいのかわからないんだ」
「複雑なんだね」
「残念ながらな。シャルル、七瀬はあちらの世界では兄弟などはいないのか?」
「七瀬は一人っ子だったよ。だから兄弟は……あ! そうだ、僕いいこと思いついた!」
「いいこと?」
 僕の声をリタが復唱する。僕は笑顔で頷くと、

「七瀬にはお兄ちゃんがいないから、リタが七瀬の本当のお兄ちゃんみたいに接してあげればいいんだよ! ナナセにしていたように、七瀬にもお兄ちゃんぽく接すればいいんだ」
「ナナセにしていたように、か。しかしブランクがもう三年もあるし、七瀬は嫌がらないか?」
「大丈夫! 七瀬なんてお兄ちゃんいた歴無いんだから、ブランク三年なんてなんてことないよ! それに、こんな優しくて妹思いのお兄ちゃん、嫌がるわけないじゃないか!」
「シャルル……」
「心配なら、練習すればいいよ!」
「練習? 兄になるための練習か?」
「そう! 妹を可愛がるお兄ちゃんの練習だよ! リタ、ちょっと待ってて!」
 僕はリタにそう言い残し、いったんその場から離れた。
 そして、ナナセが昔使っていたおもちゃが片づけられている物置部屋で「あるもの」をとってくると、
「はい、これ!」
「こ、これは……?」
「これを七瀬だと思って、まずは可愛がってみて! これだったら、ナナセにしていたように頭を撫でたり話しかけたり出来るでしょう?」

 ――僕が部屋から持ってきたのは、女の人の姿をした人形だった。
 成長してからは男顔負けで剣や馬の稽古ばかりしていたナナセだったけれど、まだ子て供だった頃はドレスを着た人形でおままごともしていた。
 その時の人形を、お母さんのマリ様がきちんととってあったのを僕は思い出したんだ。
 案の定人形は、真っ白いウエディングドレスのようなゴージャスなドレスを身に纏い、金色の長い髪を真っすぐに背中まで下しティアラを頭に乗っけていた。
 少し色はくすんでいるけれど、ドレスにあったハイヒールやペンダントなんかもしていて、小さな女の子が好きそうな風体をしている。

「この人形はナナセが大切にしていたものなんだ! リタも見たことがあるんじゃない?」
「そういえば……よく一緒に遊んだこともあったかな」
「それなら、愛着も沸くよね!」
「そうだな。これに話しかけるのに慣れれば、七瀬にも気軽に話しかけられるし、ナナセにしていたように接することが出来るかもしれないな……」
「そうだよ!さあ、リタ。まずはやってみて!」
「あ、ああ……ええと……」 

 リタは人形を丁寧に胸に抱くと、とっても優しい手つきで頭を撫でた。

「そう! いい感じだよ、リタ!」
「そ、そうか?」
「じゃあ今度は話かけてみて!」
「あ、ああ。えーと……な、七瀬。調子だどうだ?」
「うーん、それだと、『まあまあです』って言われたら会話が終わっちゃうでしょ? もっとさあ、別のことから入ってさりげなく会話を繋げたら?」
「別のこと……。そうだな、じゃあ、七瀬。こちらの世界はもう慣れたか?」
「固ーい! もっと弾むような感じで!」
「は、弾む……。な、七瀬。お、お前は髪が長くて綺麗だな」
「もう一声!」
「七瀬、この間着たドレスは本当に良く似合っていたぞ。またあれを着て、今度は一緒に散歩でも……」
「それいい! いいじゃない、リタ! その調子だよ!」
「そうか? じゃあこれを基点にしてもっと練習してみよう! シャルル、礼を言うぞ!」
「どういたしまして!」

 僕は、人形を抱いて笑顔のリタとそこで別れた。
 部屋に戻りがてら一度後ろを振り返ると、リタは自室に戻りがてらの廊下を歩きながら、人形を抱きしめて頭を撫でたり、七瀬役もわざわざ声色を変えてやりつつ、若干必死でいろい話しかけているのが見えた。
 とっても練習熱心に見えた。

 七瀬と話したい――そんな一途な思いが、国王であるリタをあんなに一生懸命にさせるなんて。七瀬は本当に幸せだなあ。
 それに、あんなベストな練習法を思いついちゃうなんて、僕ってなんて天才なんだろう!
 七瀬との会話がうまくいったら、リタに何かご褒美をもらおうっと。

「……あら? シャルル、随分ご機嫌じゃない」
「んー? 別に!」
「ふーん……それより、ちょっとは反省したの?」
「そっちも、別に!」
「まったく……そのご機嫌具合がちょっと怖いのよね」
「なんだよ、失礼だな」
「だって、シャルルを放っておくと、何をしているかわからないんだもん」
「ひどいなあ。今日だって僕は、とっても良いことをしてきたばかりだっていうのにさ!」
「いいこと? どんな?」
「秘密! でもきっとすぐにわかるよ!」
 ご機嫌で部屋に戻った僕を怪訝そうに出迎える七瀬にちょっと含みを思わせつつ、僕はリタのあの涙ぐましいまでの練習が近いうちに実を結ぶことを心から祈った。
 そんな僕は勿論、


「……セシルよ。ちと良いか?」
「サルエル様。これはどうされました」
「いや……その。先ほどな、用があってリタ様の部屋を訪ねたのだが」
「ええ」
「その……リタ様は何やら、少女の人形にご執心でな……」
「……はあ」
「声色まで変えて、一人二役でそれはもう熱心に話しかけているのだよ……そうかと思えば、人形の頭を撫でたり、頬ずりしたり」

リタの信頼できる顧問官・サルエルが、執務室にたセシルの元を訪れた上、そんなことを深刻な表情で相談し始めたこと、

「……最近忙しかったので、少しお疲れなんでしょうか」
「そうかもしれんな……幸い、私が部屋を訪ねたことには気づいておられなかったので、そっと扉を閉じてこうして部屋を離れたのだが。あまり、その……」
「……そうですね。後ほど、リタ様のお話し相手になりに伺うようにいたします」
「頼んだぞ、セシル。お前になら、リタ様も話しやすいかもしれんしな……」
「ユーリにも話しておきましょうか」
「いや、実はなセシル。私の後にユーリがリタ様の部屋に入っていったのだが、二人は何やら会話を交わした後、その……」
「どうされたのですか?」
「ユーリがその人形の役を引き受けて、今度は二人で人形遊びを……」
「……。後で確認しましょう」

いつの間にか人形トレーニングにユーリが巻き込まれていたこと、
そういうことを何も知れないセシルが顔をぴくぴくさせながら頭を押さえていたこと、そして――知らないところでそれらが厄介なことになっていたことなど、僕は考えてもいなかった。
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